『静かで質素な生活は、絶え間ない不安に縛られた成功の追求よりも多くの喜びをもたらす』
この言葉は物理学者アインシュタインが95年前に東京の帝国ホテルに滞在した際、書いた言葉である。
今年の10月、この言葉が書かれたメモがオークションで、約2億500万円で落札されたので話題になっていた。
私はこの言葉を読んだ時、意外に思い、そして厚かましくも親しみを覚えた。
アインシュタインのような天才は、不安とは無縁で、自分が信じた道を揺らぐことなく突き進んでいると思っていた。
しかし実際は、絶え間ない不安に縛られながら成功の追求をしていたようだ。そして時には、「私は誰の為に、何の為に、こんなにしんどい思いをしているのだろうか?成功なんていらないから静かで質素な生活を送りたい」と思った日もあるのだろう。だから上記のような言葉が書かれたのだろう。
それでもアインシュタインが成功の追求をやめなかったのは、やはり研究が好きで、挑戦が好きで、また社会に対して使命感を感じ、そして使命を果たす為に戦っている自分に喜びを感じていたからではないだろうか。
研究も、経営も、スポーツも、何でも、成功を追求しようと思えば、気が遠くなるような地道な事の連続でしんどい事の方が遥かに多い。それでも途中で諦めることはなく、地道に一歩一歩やり続けていれば成果は表れてくる。
人によって成功の定義は違うだろうけど、苦しめば苦しむほど成功した時の喜びは大きい。私は、そういう喜びの方が、静かな生活から得られる喜びよりも好きだ。
ところで上記のメモは、チップの代わりにホテルの関係者にアインシュタインが渡したものである。アインシュタインが小銭を切らしていたのか、それともチップの受け取りを関係者が断ったのかは定かではないが、手ぶらで帰すのを望まなかったアインシュタインが、その場で書いたメモだそうだ。
そして手渡す時に「もしあなたが幸運なら、このメモ書きは普通のチップよりもずっと価値が高くなるでしょう」との言葉を添えたらしい。
ノーベル物理学賞の受賞を知って間もなくの出来事であったらしいが、なんとも粋な計らいだと感じ入った。
アインシュタインは、今までの物理学の常識を超えて世界の歴史を変えた言われるほどの数式E = mc2(相対性理論)を生み出した天才でありながら、身近な人たちにも目を向け、律儀で温かな気配りが出来る機知に富んだ人であったのだなと改めて感服した。