現在当社は、サービス付き高齢者専用賃貸住宅(以下 サ高住と記載)の開設に向けて進行中であるため、必然的に高齢者施設に関する情報には目を止めてしまう。
先般テレビのチャンネルを変えた時に、印象的なシーンに出くわした。
どこかカフェテリアのような場所で、かなりお歳を召されたご老人の男性が、粋なバーテンダーの出で立ちでシェイカーを振っているのである。そのご老人を、これまたたいへんお歳を召されたご老人がたが取り囲み、カクテルが出来上がるのを、顔をほころばせて楽しげに待っているのである。
番組は、そのまますぐ終わってしまったので気になって調べてみると、バーテンダーの正体は、京都市にある特別養護老人ホームに入所する81歳の男性であった。
記事によると祇園の酒場で長きに渡りバーテンダーをされていたそうだ。
俳優の藤田まことさんが京都へ来られた時には、よく来店されて、お互い「ちゃん」付けで呼び合う仲だったらしい。
話が横道にそれるが、藤田まことさんと言えば2010年にお亡くなりになられたが、長い間、東建コーポレーション㈱さまのCMに出演されていた。
私が、東建の左右田鑑穂社長に師事させて頂いている関係で、藤田まことさんとはパーティ等で何度もお会いする機会があり、お話させて頂けた。
詳しい記憶は途切れがちだが10数年ほど前、話の流れで京都の話題になった。
その時私が「京都にはおふくろの菩提がありますので、よく参ります。」と申し上げると、「いい酒場があるから、また紹介するよ」とおっしゃって下さった。
結局紹介して頂くには至らなかったのであるが、もしかしたら、それは前記のご老人のお店のことだったのかな?と当時を懐かしく思った。
話を戻すと、このご老人は3年ほど前に認知症で入所されたとのことだが、とにかく明るい性格の方で、また職員の方たちに「何か手伝うことはないのか?」と口癖のように尋ねていたそうだ。
そこで職員さんの発案で、時節のイベントなど折々に施設内に酒場を設けて、そこのマスターとして、他の入所者さん達にカクテルを出すことにしてもらったのだそうだ。
酒場は、多くの入所者の方々に「好影響」を及ぼした。
例えば食欲不振の方が、おつまみであればすべて平らげてしまわれたり、今までほとんど寝たきりだった方が車いすに乗ってでも酒場を訪れるようになったり、認知症の進行が抑えられたりなど、数々の良い効果が表れたそうだ。
当社でもサ高住を開設するにあたり、入所者さま達のレクリエーションについても意欲的に話し合って来た。
しかし何故だか「お酒」というアイディアは思い浮かばなかった。
それは「酒と高齢者施設とは離れた存在である」と無意識のうちに思い込んでしまっていたからだ。
しかし考えてみれば、若かった時に「楽しい」と感じた事は、高齢者になってからも楽しいと感じる気持ちはある。たとえ昔と同じぐらい「楽しい」と思えなくても、嫌いにはならないだろう。
「昔のようにバーに行ってみたいなぁ」と思っても、高齢者はその機会がなかったり、遠慮があったりするだろう。年寄りは年寄りらしくしなければと、本人や周りが思ってしまうと、体だけではなく心まで老いてしまうのではないだろうか?
体が不自由になって高齢者施設に入所しても、心は若いまま、時にはお酒を飲んでワクワクしたり、面白がったりして欲しい!きっとそんな職員さん達の想いから、この酒場は誕生したのではないだろうか?
高齢者施設と酒という意外な2つを結びつけた職員さん達の創造力と想いが素晴らしい。
そしてもう一つ素晴らしいのが、職員さん達は、個人の出来ることや特技に目を向けて、
老紳士に「役割」を与えたこと。
年を取ると、職場や家庭での自分の役割を失い、自分の存在価値がわからなくなって行く。
しかし老紳士はバーテンダーとして他の入所者さん達に喜びを与え、施設にも貢献している。
お年寄りにとって誰かの役に立つという事は、「生きがい」につながるような大きな喜びなのではないだろうか?職員さん達の気づきとサポートで、一人のご老人の「生きがい」や「喜び」を作り出せたのだ。
高齢者たちは、老いと体の不自由と寂しさを感じながら毎日を生きている。
しかし日々の出来事を楽しむ心は、本人と周りの協力次第で持つことは出来る。
心はいつまでも若く、そしてたった一度しかない人生を豊かに味わい尽くす、そんなことが出来る施設を作るのが当社の目標である。