人間、やれば出来るもんだな

私は珍しい特技を持っている。
驚異の唱法とも言われている「ホーミー」というものを知っているだろうか?
これはモンゴルの伝統的な歌唱法で、うなり声のような低い声(ドローン音)と, 非常に甲高い声(メロディー音)の2つの音を同時に発声する歌唱法である。


この動画を見て頂ければ、分かるだろう。
笛のように聞こえる音も、低い唸り声も一人の男が同時に発声している。

 

もちろん私はプロではないので動画の彼のレベルには到達してないが、これに近い域のホーミーが出来る。

 

私が初めてホーミーを聞いたのは、今から40年近く前の私が小学4年生の頃だったと記憶している。
イベント会場内に出来た人垣の中を覗くと、見たこともない民族衣装を着た日焼け顔のオッチャンが、風変わりな琴を弾きながら不思議な発声法で歌を歌っていた。
その当時は「ホーミー」という名前さえ知らなかったが、初めて聞く神秘的な音色は、私の脳裏に強烈な印象を残した。

 

私は、家に帰るとすぐに練習に取り組んだ。
しかしウーウーと人前で唸るのは流石に恥ずかしかったので、登下校の途中に人気が無いのを見計らったり、学校の裏で誰も居ないのを確認したりしながら、練習をしていた。

しかし6年生の終わり頃に、担任の古谷登美子先生に見つかった。
掃除当番だった為、放課後に学校の裏の焼却場でゴミ焼きをしながらホーミーの練習をしていた。
自分の世界に入ってウーウー唸っている最中に突然肩を叩かれ振り向くと、古谷先生の心配そうな顔があった。
「あんた何しているの?お腹でもいたいの?」と聞かれた。
きまりが悪い思いをしながら、イベント会場で見たオッチャンの話をし、二年前からずっと練習していると説明すると「それがもし出せたら、あんたは今後、何をしてでも生きて行けるし、食べて行けるわ!」と先生は感心したように笑ってくれた。
・・・と記憶しているのだが、もしかしたら呆れて笑っていたのかもしれない。

 

結局は中学生になり声変わりをした後、まもなくして私はホーミーが出来るようになった。

そうなると人に聞かせたい気持ちが沸いて来て、私が初のお披露目の聞き手に選んだのは、中学1年の担任の滝本二郎先生であった。
この先生は英語の先生であるから普段から発音に対しては熱心で、「舌を巻いてー」などと言っていたので、私は先生をからかうために、わざと先生の近くでホーミーをしてみた。
すると先生は「お前凄いな!」「変わっているヤツとは思っていたけどホンマにけったいな奴やな」と目を丸くしながら期待通りの反応をしてくれた。

それで満足して、このあとは20年近くホーミーの事は忘れて時を過ごした。


再び私がホーミーの事を思い出したのは、あるテレビ番組だった。
調べてみると約20年前の1996年11月23日(土)にNHKで「ユーミン、モンゴルを行く、幸福を呼ぶ ホーミー」と題して歌手の松任谷由実さんがモンゴルを旅するドキュメント番組。
その番組の中で初めて、自分が子供の時にひたすら練習していたものは「ホーミー」であるという事を知った。


記憶の糸を探りながらホーミーをやってみると、すぐに出来た。
それ以来、気分転換や気が向いた時に、人知れず一人でホーミーをしている。

ただし、今もホーミーを人前でするのは恥ずかしくてx100たまらない!!
数十年に渡り、お付き合いさせて頂いている方々の中でもほとんど知られていない。
だから私を見かけても「ホーミーをしてみろ!」と言わないでほしい!
もし強要するならば、美味しい酒と肴を存分にごちそうしてくれた後、私が酔っ払ってからにしてほしいのである!(大爆笑)